饂飩と餅と鍋

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zoom RSS 終わらない話

<<   作成日時 : 2015/07/09 21:32   >>

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「何・・・?」
 1人の男が嵐の中、立っていた。
「無理よ」
 私は自信を持って、そう答える。
「あなたは、私に勝てない」
 嵐に吹かれて細い枝のように今にも折れそうな男と、揺るぎもしない私。勝負は歴然。
「何故だ・・・?俺は7つの大陸と5つの島を駆け巡った勇者。英雄だぞ?今まで誰に負けた事も無い。膝をついたことだって・・・」
「そうね。でも、私には勝てないわ」
「有り得ない!俺が負けるなんて・・・?」
「だって、私は・・・」
 吹く風が心地よい。私は大きく息を吸った。
「だって、私は『絶対者』。私には絶対に誰も勝てないもの」
 男は巨大な剣を両手で構えている。あんな大きな剣、本当に自在に振り回せるとでも思っているの?有り得ない。
「な・・・!?」
 突然、男はその剣を地面に落とした。落として、信じられないというように自分の両手を見つめる。
「急に重く・・・?どういう事だ・・・?」
「そんな大きなもの、人間が使いこなせるわけないじゃない。馬鹿みたい」
「・・・!何をした!?」
「別に。『こんな大きな剣、持てるわけがない』って書いただけ」
 私は、男に紙とペンを見せた。そこに先ほど書いた文字が並んでいる。
「一体、どんな魔法で・・・」
「魔法?そうね。あなた達にはそう見えるかも?」
 絶対者。その存在を知らないのは当然。でもそれに踊らされておろおろする様は滑稽で、とことん見下したくなる。
「あなたは絶対に私には勝てないわ。うぅん、あなただけじゃない。誰も、『誰も私には勝てない』」
「その紙か・・・そのペンか・・・!それが魔法の正体!」
「違うわ。こんなものが無くても私は『絶対者』だもの。これは、あなた達の無様な姿を書いておくだけの紙。本にして色んな人に読んでもらうの」
 この世界に住む人達は、誰も知らない。誰も想像もしないに決まってる。この世界が実は『本として描かれただけの世界』で、ここに住む誰もが『造られたイキモノ』である事。小さな小さな箱庭の中で踊っているだけの、あわれなヒトタチ。
 ねぇ、この世界を書いたのは、造ったのは、私なの。だからどうだって出来る。今、この一瞬のうちに目の前の『英雄』を殺すことだって、何だって出来るのよ。
「そうね・・・どんな死に方がいいかしら。読者はきっと、感動的な場面を想像していると思うのよ」
 陳腐なお涙を誘う終わり方もいいかもしれないけど、せっかくこの世界で私が動けるようになったんだもの。どうせなら、私の強さを思い知るような終わり方がいいわ。私の圧倒的な強さを知って、怖れながら死ぬの。かつて、圧倒的な強さを誇った『英雄』の無様な終わり方。この男が無様に死ねば、私の強さが引き立つわね。
「決めた。あなたは今ここで」
『そう勝ち誇った”絶対者”の胸に、大きな風穴が開きました。』
「・・・え・・・?」
 頭の中に聞こえてきた声と同時に、私は体が支えを無くして崩れるような感覚を感じた。
「・・・え・・・?」
 目の前に横たわる地面を見『彼女の目の前には広大な大地が広がっていました。横たわり寄り添うように見えたその土を頬に感じながら、彼女はしばらく自分が倒れこんだという事に気付かずにいました。』倒れた・・・?私が・・・?
「・・・何なの・・・?これは・・・?」
『そして、彼女はつい先ほど男が発したのと似た言葉を呪文のように呟きました。』
「ありえない・・・。だっ・・・私は・・・『絶対者』なのに・・・」
『自分の作り出した世界に入り込んだ”絶対者”。”作者”が”絶対者”で有り得るのは、その世界に存在し得ないからなのです。だからこそ干渉し続ける事が出来る。その事を、彼女は失念してしまっていたのでした。』
「しつね・・・ん・・・?だっ・・・て・・・わ・・・」
『呟き零れる言葉は、殆ど誰にも聞き取る事が出来ませんでした。彼女の双眸からは光が消え、急激に命の輝きは失われつつありました。そう。自分が作り出した世界を、自分を至上とした世界と変えるという愚かな行為に手を染めた”作者”の、これが末路なのです。』


「先生・・・。この記事、まさか本当に出版するんですか?」
 読み終わった弟子が、眉を顰めて私を見上げた。
「いいえ。くるくる回る猫の尻尾を掴むようなものよ。終わりの無い話に終わりは書けないわ」
「じゃあ・・・どうしてこんな話、書いたんです?『本の中に住んでいる人は本の中の住人だと知らなかった。そこにそれを書いた作者が神を名乗って現れ好き放題したが、本の中に入った事で作者は作者で無くなり、新たなる作者によって世界を作りかえられてしまった』。それで終わればいいのでは?」
「あら。それだけでは可哀想」
 開いていた本を閉じ、私は弟子に微笑んでみせる。
「だって、”彼女”は、その世界の外で、それまでは確かに生きていたのだもの。そして『本の中で』描かれないだけで、沢山の人が本の中には生きている。えぇ、そうね。私達だって・・・」
「先生。私達は想像上の人間ではありませんよ?私達は、私達の意思で選び、生きていますし」
「・・・本当に?」
「当たり前です」
「そう。だから、この話は『終わりがない話』。永遠に続く話よ」

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