饂飩と餅と鍋

アクセスカウンタ

zoom RSS 習作:ぼくのすきなさいばーぱんく(だが主人公が微妙)

<<   作成日時 : 2015/06/13 23:15   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0


 夜にでもなれば、どこからともなく人が集まる通りがある。
 その細い路地を行きかう人々に対し、威勢よく声を掛ける露天の店主は居ない。ざわつく気配と薄暗い灯りの中、人々はただ、黙々と目的のものを求めて流離っている。
 そこは通称『闇市』と言った。その言葉通りだ。表に出せない、正規品とは呼べないコピー品、粗悪品、或いは盗品等が、並んでいる。
 闇市には主となるメインストリートがあるが、その道幅はせいぜい3人が並んで歩けるほどの広さしかない。それでもその道が闇市の象徴となる通りであり、そこを通り抜ければその先に広がるのは、表には絶対に出ることのない店舗が軒を連ねる、『地下街』である。
 地下街は、店舗自体は地上にあった。薄汚れた細い路地が幾つも繋がる迷路のような区画で、その細い道のあちこちには雑多に物が散らばっている。急いで走ろうものなら、すぐにでも何かに引っかかるかぶつかるだろう。「ゴミ溜めのようだ」と囁くものたちも居たが、その『ゴミ溜め』が、まるで計算されたバリケードのようにも見える。
 『地下街』には、50軒ほどの店があった。だがそれはあくまで、地上から見える範囲での話である。実態は、そこに店を構える者たちですら分からないと言う。次の日になればいつの間にか忽然と姿を消している。そんな事は、この辺りでは日常茶飯事だ。
「オヤジぃ〜。居る〜?」
 そうした店の中のひとつに、少年が臆することなく入っていった。
 入り口は引き戸だが半分は開いており、沢山の細い紙が垂れ下がっている。そこをくぐれば中は、せいぜい4畳半ほどの小さな工房だ。天井からは商品だか飾りだか整備道具だか分からない薄い金属の板が幾つもぶら下がっているし、一体いつ掃除したのか分からないほど、歩けば埃が舞っている。半分ひび割れたような作業台と壊れかけた椅子を見れば、まともに商売しているとも思えない。その作業台の上に置かれた細々とした道具のいくつかは、いつ手入れしたかも分からないほど錆びていた。
「また、腕の調子が悪くってさぁ。ちょっと見…」
 気安く喋りながら店内に入り込んだ少年は、いつも店主が座っている壊れかけた椅子のほうへと視線をやって…その足を止めた。
「だっ…誰だ!?」
 叫ぶように誰何しながら、少年は飛び退く。閉まっているほうの引き戸に僅かに腕をぶつけたが、そのまま臨戦態勢を取ろうとしてかろうじてそれは留めた。
「はい〜?」
 そんな少年を、壊れかけた椅子に座りながら見ているのは…。
「わたしですか〜?」
 およそ、その場には似つかわしくない。いや、居ること自体が不自然な、若い女だった。
「お前、まさか…」
 小首を傾げる女は、まだ17、8歳に見える。少年よりは年上だが白い肌が美しくきめ細やかで、茶色の髪はふんわりと巻かれていた。日々手入れを欠かさず行っているのだろう。着ている服も質素だが汚れもなく、ちょこんと椅子に座っているさまは、まるでこのような場所に舞い降りた奇跡のようだ。
 だが、そんな事が偶然起こりえるはずがないと、少年は知っていた。
「…まさか、て…」
 そして、思い当たった噂をその女にぶつけようとして…さすがに思い止まる。
 もしもその噂が本当だったならば。
 それを告げれば自分の人生はここで終わってしまう。
「手…ですか?」
 ひら、と女は片手を振ってみせる。にっこりと微笑みながら。
 いや、この女は始めに見たときから、ずっと微笑んでいた。それがますます不気味に思えて、少年は後ずさりする。
「まさか…」
 その噂は、噂でしかなかった。だが、噂だと笑い飛ばせるような話ではなかった。
 行政機関に属する司法当局、通称『神座』。人々を監視し取り締まり、法の遵守を強制する組織。その組織で実際に手足となり動いている局員達が居るのだが、その中に『天使』と呼ばれる者たちが居るのだと言う。見た目は麗しく、光を放つかのようなカリスマ性を持ちながらも、圧倒的な力と無慈悲な心で人を裁く…人造人形。人と見紛うかのような、アンドロイドが、完成したのだと。
 遂に、その天使達が。
 この地下街に舞い降りた。のだとしたら…。
「くっ…そぉ…!」
 この店の店主はとうに排除されているに違いない。知らせなければ。他の天使達が来る前に。
 少年は踵を返し、素早く路地に出て走り出そうと地を蹴り…
「ぶほっ」
 何か巨大な、適度な固さを持つ何かに激突した。
「おいおい、何しとる。ワシの店から飛び出してくるなよ、弾丸ボーイ」
「…! オヤジぃ!」
 少年より高さにして1.2倍。幅にして1.5倍の初老の男の適度な固さの腹にぶつかったまま、少年は思わず目尻に涙を溜める。
「…痛ってぇんだよ!腹に鉛入れてんじゃねぇ!!」
「鉛入れとるのは、お前さんの腕じゃろが。まったく、粗悪品ばっかり付けおって」
 どすどすと音を立てながら工房に入り込んだ男は、椅子に座ったままにこにこしている女を見下ろした。
「悪いな、娘さん。留守番させちまって」
「いいえ〜。めずらしいものばかりで、楽しくって〜」
 間延びした喋りに、男…店主の後から再度店に入った少年は、眉を顰める。
「オヤジ…大丈夫なのか?」
「何が」
「何って…こいつ、アレじゃねぇのか?ほら、噂の…」
「あぁ〜…アレな。いや、この娘さんは元上流階級の娘さんで…」
「なんだよその怪しい設定!」
「お貴族サマが零れ落ちてくることなんざ、そう珍しくもないだろうが」
「上流なんてもんが落ちてくるのは、めっちゃくちゃ珍しーだろぉ?!」
「まぁ、口の悪い連中ばっかりじゃが、根は悪い奴らじゃないんじゃ。仲良くしてやってくれんかの?」
「何で無視するんだよ!ちゃんと聞けって!なぁ!」
「まだお子様でな。娘さんに迷惑かけるかもしれんが、適当にあしらってやってくれ」
「はい〜。分かりました〜」
「おぃ!オヤジ!」
 相変わらず笑顔が絶えない女をやはり薄気味悪く思いながらも、少年は店主の後を追った。そしてそのまま地下への階段を下りようとするその男を、慌てて背中から引っ張る。
「何してんだよっ!」
「何が」
「だーかーらぁっ!オレの話、ほんとマジメに聞けって!」
「聞いとる聞いとる」
「あいつの前で、そこ降りるのかよ!?」
 幾分声を潜めた少年に、店主は少しだけ目を見開き…それから、にやりと笑った。
「まぁ…見とれ。今に分かる」
 そうして、そのまま自分の幅ぎりぎりの階段を、彼はゆっくりと左右に揺れながら降りて行った。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文

リンク

習作:ぼくのすきなさいばーぱんく(だが主人公が微妙) 饂飩と餅と鍋/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる